彩色/装飾写本とイルミネーション -その歴史と背景-

イルミネーションについて About Illumination

イルミネーションのはじまり

西洋の書物が、巻物から本の形態をとりはじめたのは、紀元2~4世紀といわれています。
6世紀には、修道士によって羊皮紙を使った本格的な本の制作が始まり、これらの手稿本は、後にIlluminated Manuscript (装飾/彩色/彩飾写本) のような、アートフォームを呈した本が登場するようになりました。15世紀にヨハネス・グーテンベルク(Johannes Gutenberg)によって活版印刷術が発明されるまでの間、これらの美しい写本は中世ヨーロッパ各地で隆盛を極めました。

初期に制作された本の大半は、教会で用いられる聖書、詩篇書、祈祷書、聖歌集などが中心で、写本は僧院に併設されたスクリプトリウム(Scriptorium) と呼ばれる作業部屋で、筆記、装飾、挿絵、製本、修理等…すべて手作業で行なわれました。東洋に比べ紙の普及が遅れたヨーロッパでは、紙のかわりに羊、山羊、牛などの獣皮を紙のように加工したパーチメント/ヴェラムが使われ、その耐久性ゆえ、8世紀に作られた「ケルズの書(The Book of Kells)」などに代表される美しい装飾写本が数多く現存しています。ページの頭文字や縁飾り、挿絵部分には、色鮮やかな装飾が施されました。それがイルミネーションと呼ばれる技法です。

語源

‘Illumination’は、「輝かせる」「照らす」という意味のラテン語‘illuminare’から派生したもので、ラピスラズリが原料となる群青(ウルトラマリーン)をはじめ植物や鉱物から採った色鮮やかな顔料と、金・銀をふんだんに使った装飾は、まさに、宝石のように光り輝く豪華なものでした。この最高に贅沢な手稿本を所有することは、当時の王侯貴族や裕福階級の憧れ、富の象徴となり、人々は競って制作を依頼しました。

変遷

ルネサンスの終焉を迎える頃には、印刷本の大量生産が可能になり、手稿本の需要も減少、同時にイルミネーションの技術も衰退してゆきました。その後19世紀半ばに、英国のウィリアム・モリスらが中心となった「アーツ・アンド・クラフツ運動(the Arts and Crafts Movement)」により、中世の写本研究や関連の伝統技術が見直され、イルミネーションにふたたび人々の関心が集まった時期がありましたがそれも長くは続かず、今では、古い歴史を持つ欧州諸国でさえ、一般にはあまり知られていない、ごく限られた用途でのみ使われる技法となりました。

現在、イルミネーションの技術が学べるアートスクールや大学は欧州でも非常に少なく、イルミネーターを生業としているアーティストの数も多くありません。しかしこの伝統技法は、王室文書や公式証書・免許状…等、正式文書の紋章や頭文字を美しく飾る重要な役割を果たすなど、欧米のいろいろな場面で今も大切に受け継がれています。

ヨーロッパやアメリカを旅する機会がありましたら、是非、図書館や教会にも足をお運びください。イルミネーションが施された写本や文書に出合っていただけると思います。